2010年4月6日火曜日

著作権法は現代の禁酒法

http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/f876f3d2665d34d5ebe6a51346fbd540

Winnyの開発者、金子勇氏に逆転無罪判決が出た。これは法技術的にはともかく、ファイルの無断コピーが大 量に行なわれ、P2Pがインターネットのインフラになりつつある実態に裁判所があわせたもので、コモンロー的には当然の判決だろう。BitTorrent やSkypeばかりでなく、ヤフー動画でさえ実はP2Pで配信されている。皮肉なことに、47氏(金子氏)の
個人的な意見ですけど、P2P技術が出てきたことで著作権などの
従来の概念が既に崩れはじめている時代に突入しているのだと思います。

お上の圧力で規制するというのも一つの手ですが、技術的に可能であれば
誰かがこの壁に穴あけてしまって後ろに戻れなくなるはず。
最終的には崩れるだけで、将来的には今とは別の著作権の概念が
必要になると思います。
という予言が現実になりつつあるのだ。ニューズウィークに 書いたように、そもそもインターネット自体がホストを直結するP2Pネットワークなのだから、P2Pソフトの開発者をすべて逮捕したら、世の中からイン ターネット技術者はいなくなるだろう。つまりインターネットは日常的な著作権侵害を見逃すことで成り立っており、著作権法は、リアル・ネットワークスのロ ブ・グレイザーもいうように、現代の禁酒法になりつつある。

禁酒法は13年あまりで廃止されたが、著作権法は国際条約になっているため、改廃することがきわめて困難だ。そして文化庁が著作権法を強化するとき、いつ も口実にするのが「国際的ハーモナイゼーション」である。このように著作権の保護によって「産業競争力」を強化しようと各国が争う状況は、近代初頭の重商 主義と似ている。それによって個々の企業にとっては利益が上がるが、情報重商主義によって情報の流通が阻害され、消費者の利益は損なわれ る。こうした問題を個々の権利者の側からだけ見て「知財強化」をはかる産業政策的な方針は、長期的にみると情報流通を阻害し、社会全体の利益には必ずしも ならない。

保護貿易をめぐっては、他国が保護を強化するから自国も強化しなければならないという囚人のジレンマがみられるが、知的財産権では権利保護の弱い国に情報 が集中するという租税回避と同様のジレンマが生じている。 現在、インターネットの世界でもっとも映像コンテンツが集積しているのは韓国である。また中国が巨大な「コピー天国」として、世界の海賊盤の8割を生産し ているともいわれる。これは世界経済にとっては、必ずしも悪いニュースとはいえない。特に開発途上国への技術移転や医療援助にとって、このような「情報密 輸」は有用かもしれない。

欧米圏で情報を「財産」とみなす擬制が成立したのは、情報が書物やフィルムなどの物質に付随して売買されることが自然だった時代に法的な規範ができたため だが、そうした法律よりも先にデジタル情報技術が普及したアジアでは、情報を物として扱う規範は自明でもないし、効率的かどうかも疑わしい。GDPの 0.1%にも満たない音楽産業の利益を守るために、P2Pのような重要な技術革新を非合法化することは、社会的な損失のほうがはるかに大きい。

1993年ごろ、ウェブ・ブラウザが急速に普及し始めたときWinnyのような訴訟が起こされていたら、今日のインターネットはなかっただろう。また 1984年に、ユニバーサル・スタジオがソニーのVTRを著作権法違反で差し止める裁判に勝訴していたら、映画業界は最大の収入源を失っていただろう。歴 史的には、むしろこうしたコピーを容易にする技術によって情報の流通が促進され、新しいビジネスモデルが生まれて情報産業は発展してきたのである。

47氏は2ちゃんねるで、P2Pを使って課金するシステムなどにも言及しており、すべての情報をコピーフリーにしろと主張していたわけではない。今や彼の いうように「後ろに戻れなく」なったとすれば、もう著作権法にはこだわらず、ネットワークで情報を共有することを前提にした制度設計のイノベーションを考 えるときではないか。

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